「3万円以上の領収書もスキャンできる」「「スキャンすれば紙を捨てられる!」「法律改正でスキャンしやすくなった」という声やニュースも多いのですが、現実的にはまだまだ厳しい要件があります。
フリーランス、ひとり社長、中小企業にとって導入するのは、非常に難しいです。
スキャナ保存が実現すると、便利だけど・・・。
現状、領収書は、原則7年間(最大10年間)、紙で保存しなければいけません。
スキャンスナップやスマホアプリが便利になった今でも、紙を捨てることは許されていないのです。
(メールやネット上の領収書も、プリントアウトして紙で保管しなければいけません)
領収書、契約書をスキャンして、紙の原本を捨てることができるスキャナ保存(法律上、「スキャナ保存」といいます)。
これが実現すれば、
・紙の保管コスト
・紙を保管する手間
がなくなります。
データで保存しておけば、検索も簡単です。
ただし、スキャンしたデータは、改ざんすることも簡単であり、それを国税庁は非常に警戒しています。
そのため、スキャナ保存には厳しい要件があり、事前に承認を受けなければいけません。
スキャナ保存自体、実は、平成17年からできるのですが、平成25年時点で累計133件しか承認されていないほどです。
私ももちろんやっていません。もし実現可能なら率先してやっています。
国税庁が求めるスキャナ保存の要件
その厳しい要件についてみていきます。
平成27年の税制改正により、平成28年1月1日から(平成27年9月30日以降の承認申請より適用。承認申請は3ヶ月前に行うので、実質平成28年1月1日)要件は緩和されるのですが、それでも厳しいです。
その緩和もあわせて解説します。
1 対象となる文書[緩和]
領収書、契約書、見積書、納品書などのうち、3万円未満のもの。
↓
[改正後]
3万円未満という金額基準はなく、すべてが可能になりました。
2 適正事務処理要件
これは改正後、明確に追加されたものです。
「適正事務処理要件」とは、かんたんにいうと、社内でルールを決め、規程を作り、相互のチェックができるような体制をいいます。
3 入力方式[緩和]
スキャナ保存は、原則として「受け取ってから7日以内」にやらなければいけません。
そうでなければ、業務サイクル(通常1ヶ月)にあわせて行うことが認められています。
現状は、業務サイクル後にスキャナ保存する場合、帳簿も電子帳簿として保存しておかなければいけませんでしたが、改正後は、必要なくなります。
帳簿(元帳や仕訳帳)の電子保存と、領収書、契約書等の電子保存(スキャナ保存)は、別物なのです。
4 電子署名[緩和]
現状は、誰がスキャナ保存をしたか?の電子署名が必要です。
個人的な認証なので、課長や部長などの署名をしなければいけません。
コストは2万円程度ですが、営業所が多いとそれなりに増えていきます。
取得に時間がかかる、異動や退職時には手続きが必要などの手間も多いです。
この電子署名は、改正後、なくなります。
そのかわり、入力又は直接監督者のユーザーID等の記録は必要です。
5 タイムスタンプ
財団法人日本データ通信協会が認定するタイムスタンプが必要です。
これは、その時刻にスキャナ保存が行われたという証明で、かつ、その後改ざんが行われていないことの証明でもあります。
任意の期間を指定して一括検証(PDFファイルを開かずに改ざんがないことを一括で検証)できること、訂正・削除の事実が確認できることが要件です。
領収書等に関して、この要件は、改正後も変わっていません。
6 保存する画像の要件[緩和]
現状、200dpiという解像度で、カラー256階調以上でのスキャナ保存が求められています。
・解像度、階調、大きさの情報を保存
・4ポイント以上の文字を認識可能
・拡大縮小が可能
・14インチ以上のカラーディスプレイ、プリンタが必要
・日付、金額その他の項目で検索が可能なこと
などといった要件を満たさなければいけません。
改正後は、重要文書(領収書、契約書、請求書等)以外の文書は、カラーではなく、グレースケールでのスキャナ保存が可能になり、大きさの保存は必要なくなります。
注意すべきなのは、重要文書は、以前と同様の要件ということです。
7 事前の申請が必要
上記の要件を満たした上で、国税庁に申請が必要です。
スキャナ保存をしようとする、3ヶ月前までに申請しなければいけません。
請求書、領収書、納品書など書類の種類ごとに申請ができます。
https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/3030_01.htm
フリーランス、ひとり社長、中小企業にとって、スキャナ保存ができない3つの理由
フリーランス、ひとり社長、そして中小企業にとって、スキャナ保存は非常に難しいといえます。
導入できるのは、規模が大きい会社のみでしょう。
その理由は次の3つです。
1 コストが1,000万円以上かかる
複数のメーカーにも取材した結果、国税庁が認めるスキャナ保存をするには、1,000万円以上かかります。
7年間保管するとして、導入時に300万円、年間のランニングコスト(保守料、タイムスタンプ代)などが100万円×7年とすると、1,000万円です。
タイムスタンプは、
・初期6,000円+月額8,000円(1,000スタンプまで)。1,000スタンプを超えると1スタンプ8円。
というものや
・定額制で、275,000円
というプランもあります。
それをこえるメリットがないと回収できないでしょう。
書類が多く、保管コストや手間がかかっている場合には、検討する余地があります。
国税庁のスキャナ保存の要件をみたすシステムを扱っているところで代表的なのはこちらです。
電子文書のハイパーギア
2 適正事務処理要件が厳しい
要件の1つ、適正事務処理要件は、
・相互に関連する当該各事務について、それぞれ別の者が行う体制
・当該各事務に係る処理の内容を確認するための、定期的な検査を行う体制及び手続
・当該各事務に係る処理に不備があると認められた場合において、その報告、原因究明及び改善のための方策の検討を行う体制
と、法律上、書かれていますが、現実的に中小企業が、経理の規程、ルールを作って運用するのは非常に難しいでしょう。
3 スキャナ保存の手間がかかる
1と2の要件を満たしたとしても、スキャナ保存は手間がかかります。
試しに1枚スキャンしてみました。
カラー、200dpiという解像度です。
紙の原本を捨てられるとはいえ、スキャンするのはそこそこ手間がかかります。
レシートだとなおさらです。
誰がやるかの問題もあります。
紙で保存しておいた方が楽でしょう。
追記:2016/2/14に、次の記事を書きました。
タイムスタンプのコストは現実的になりましたが、2と3の理由によりスキャナ保存は依然として厳しいです。
まとめ
報道やネット上でいわれている「スキャンして保存できる。紙の領収書、レシートを捨てられる!」というのは、嘘ではありませんが、気軽にできることではありません。
「紙で保存しなければいけない」とわりきって、日々の経理の習慣をつけましょう。
保存は、封筒でも袋でもクリップでもかまいません。
私は、入力後、重ねて貼り付けています。
保管する(袋に入れる、貼り付けるなど)→入力する
という流れよりも、
入力する→保管する(袋に入れる、貼り付けるなど)
という流れの方がおすすめです。
入力してしまえば、保管方法は適当でかまいません。
だいたいわかればいいのです。
紙の領収書、請求書は捨てないようにしましょう。
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