大塚明夫さんの『声優魂』。仕事にかける情熱・覚悟を感じる意味で、いい本でした。
これにちなんで、記事を書いてみます。
「声優だけはやめておけ。」
声優の大塚明夫さんというと、『メタルギアソリッド』のスネーク、『攻殻機動隊』のバトー、『機動戦士ガンダム0083』のアナベル・ガトーなどの役で知られています。
(知っている方は知っているかと。私が好きなキャラばかりです)
『声優魂』は、
・「声優になりたい」奴はバカである
・「声づくり」なんぞに励むボンクラどもへ
など、声優を目指す人、声優をやっている方へ、「声優だけはやめておけ。」とのメッセージを発している本です。
といっても、声優向けの本というわけではなく、仕事への情熱、覚悟という面で、すべての方に通じる本と言えます。
ちやほやされたい、子供たちに夢を与えたいというだけでは、声優の世界は厳しく、ハイリスク・ローリターンであるということでした。
「税理士だけはやめておけ。」
僭越ながら、私の今の立場でも、「税理士だけはやめておけ。」といいたい気持ちはあります。次のような理由があるからです。
1 資格を取るのは厳しい道のり
税理士資格は11科目あり、そのうちの5科目をとれば合格です。
その道のりは非常に険しく、多くのものを犠牲にします。
5科目を一度に受験することはできますが、ボリューム的に現実的ではありません。
2科目、3科目が限界です。
最低でも、2年はかかることになります。
「仕事をしながら勉強できる」と言いますが、月曜から金曜まで仕事をして、その後に勉強し、土日も勉強しなければ合格できません。
仕事をしながらだと、同時に受験できる科目数は、1科目や2科目が現実的。
つまり、もっと年数がかかるのです。
残業がある場合は、勉強時間はとても確保できないでしょう。
働きながら勉強をしていると、同僚や上司からの妨害も入ってきます。
すでに合格した人からは、「試験なんて簡単だよ」「そんなに勉強しなくていいよ」と自分の過去の苦労を忘れて、仕事をおしつけられ、資格勉強をしていない人(税理士資格がなくても雇われていれば、税理士業務ができてしまいます)からは、「資格なんて取ったって意味ないよ」と、残業せずに帰ることをとがめられます。
私が、勤めていたときは、合格したときですら、「資格あっても食えないよ」「もっと年数をかけて勉強した方が(不合格を繰り返した方が)、実力になるのに・・」と嫌みを言われるほどでした。
「1科目ずつとれば5年でとれる」といわれていますが、「5年も」かかるのです。
20代、30代、40代、どの世代であれ、5年の月日を勉強するなんて、つらすぎます。
さらに、不合格になれば、それ以上の年数がかかるのです。
(合格するまで、平均して、7年とか10年といわれています)
受験のための学校にもお金がかかります。
1つの科目でだいたい20万円くらい。不合格が続けば、その支出が重なります。
学校代をけちって独学にすると、合格確率が下がるので、払い続けるしかありません。
しっかり勉強しても試験でマニアックな問題が出たり、当日の体調次第で、不合格になってしまいます。
1つのミスで、1年をまたムダにしてしまうのです。
そんなぎりぎりの戦いを数年も続けなければいけません。
資格をとらずに働いて稼いだ方が、よっぽどましですし、独立・起業は、資格がなくてもでき、資格がない方が時間を無駄にせずにすみます。
2 資格を取るために実務経験2年が必要
税理士資格には、試験合格とともに実務経験2年が必要となります。
税理士事務所や税理士法人、一般企業の経理をしなければいけません。
税理士事務所や税理士法人は、ブラックなところが多いです。
「資格をとるまでの修行期間、丁稚奉公」のようなイメージがまだありますので、給料は安く、無理難題を押しつけられます。
仕事を教えてもらうわけでもなく、自分で考え、不安におびえながら、担当のお客様(歴戦の経営者)と会話しなければいけません。
間違えれば怒られるし、聞けばうるさがられるし、いい環境とはいえないところに、2年もいなければいけないのです。
私は、27歳のときに、総務省統計局を辞め、受験に1年専念し、28歳の時に新宿の税理士事務所に採用してもらえました。
給料は、額面で20万。手取りは16万。
やりくりしながら学校代、生活費を捻出していました。
勉強しながら我慢の生活も必要なのです。
3 資格をとってからも茨の道
「資格をとって、バラ色になる。ひくてあまたのはず」と私も思っていました。
ところが、転職しようと思っても、うまくいきません。
私自身の不備、不徳もあるのでしょうが、税理士資格をとると転職しづらいのです。
お客様をもって独立する恐れもありますし、同じ税理士を採用するといろいろやりにくいからでしょう。
給料も劇的に上がるわけではありません。
私が税理士資格をとってから転職したときには、額面で年収500万円ほど(当時33歳)でした。
多いか少ないかわかりませんが、資格への投資から考えると、多いとは言えません。
収入は、資格に払うのではなく、「何ができるか」に対して払うものですので、当然のことです。
これを忘れてはいけません。
4 独立してからも茨の道
行き場を失って独立したわけですが、ここからも茨の道です。
・資格があれば、食いっぱぐれがない
・税理士だからなんとかなる
と思っていましたが、そうはいきません。
転職時と同様に、「何ができるか」「何が提供できるか」に対して、仕事がくるわけです。
税理士だから仕事が来るわけではありません。
ましてや、平均年齢60歳以上の税理士業界。税務署OBや、古くからの税理士がほとんどの世界で独立しても、無力です。
税理士を変えることに抵抗がある方も多く、不満があっても変えません。
資格という甘い汁は、もう吸い尽くされています。
残るチャンスと言えば、
・値段を安くして、契約してもらう
・独立、起業したばかりの方を狙う
といったことになっていまいます。
値段を安くする場合はもちろん、独立・起業した手の方に対しても値段を下げなければいけません。
仕事はとれるけど、収入、利益は上がらないという状況に陥ってしまうのです。
「先生!」とちやほやされて、話を聞くと、提携してくれ、システムを入れて欲しい、紹介をして欲しいと頼まれるばかり。
全部聞いていると、時間とお金は瞬く間になくなってしまいます。
甘い汁を吸い、お金を持っている税理士を基準に、会計システム、税務システムの価格が決まっており、お客様が少ないのに、10万、100万といったお金を請求されることも多いです。
仕事を紹介してもらえるかも・・・と先輩税理士に期待するも、もらえる仕事は安くて手間がかかり脱税まがいのところばかり。
高い期待と、使命感を持って独立しても、へし折られてしまいます。
お客様を紹介してくれる税理士紹介会社という素敵なシステムもあるのですが、膨大な手数料をとられてしまうので、やはり時間とお金は削られるのです。
月10万円の顧問料でも、その50%から70%を紹介会社に払わなければいけません。
それでも、薄い粗利を得るため、空いた時間とそこから来る不安を埋めるために、すがらなければいけないのです。
仕事が増えてきて、売上が上がると、休みなしで働くことになります。
大好きな税理士の仕事を思う存分できるようになるわけですが、何か違うと思っても引き返せません。
継続的な契約、つまり顧問契約がメインである税理士業、途中でやめることはできないのです。
人を雇って仕事をしてもらうようにすると多少楽にはなりますが、その分利益は減り、人を雇うためのオフィスを拡大するとますます利益は減っていきます。
売上は上がり、人も増えるけど、利益は減り、資金繰りに苦しむ。税理士業務の中で、自分がこれまで見てきた陥ってはいけない罠に自らが陥り、その陥ったことにすら気づきません。
確定申告期を含む1月から3月(3月決算が多い場合は、5月まで)は、仕事に忙殺され、仕事漬けになります。
業界では、「確定申告が終わったら新年」といい、3月に「あけましておめでとうございます」という挨拶が交わされることも増えてきました。
さらには、クラウドで簡単に経理、確定申告ができる!というソフトが出てきたり、ネットで節税の情報が流れたり、状況は悪くなる一方です。
資格で食えていた時代は、とっくに終わっています。
「楽に食っていきたい」と思う方には、税理士はおすすめできません。
それでも税理士になりたい方へ
それでも税理士になりたいという奇特な方がいらっしゃれば、次のことを伝えたいです。
1 税理士という「生き方」を選択する
『声優魂』でも、こう書かれています。
“「声優になる」というのは職業の選択ではありません。「生き方の選択」なのです”
“職業ではなく、生き方の選択をするだけの肚は決まっているのか?”
人生の大半は、働きます。働き方=生き方なのです。
税理士という職業だけを目指していくと、どこかで行き詰まりが出てきます。
税理士を「経理や税務申告の代行業」、「税務署の出先機関」ととらえるのではなく、
「税という不可解なものに対する不安を取り除く」
「問題点を解決する、困っている人をサポートする」
「わかりやすく伝える」
という生き方としてとらえれるのなら、税理士という生き方も悪くありません。
むしろ、税に限らずExcel、PC、ITなどで上記のことをやっていきたいと考えているのが今の私です。
2 税金の知識だけを磨こうとしない
いい声ばかりを目指そうとする声優に対して、
我々の仕事は「声づくり」ではありません。「役づくり」です
と、大塚さんはたしなめています。
同じような意味で、税理士は、税金の知識だけを磨いても意味はありません。
求められるのは、税金だけではないからです。
税金が好きだから、税務申告書だけを黙々と作りたいからというのでは、やっていけません。
もちろん税金の知識は必須ですが、そこだけにこだわるとお客様のニーズには応えられないでしょう。
3 自分が楽しむ
資格があると、その枠にとらわれがちです。
社会的な使命感から、自分を犠牲にしてしまっては、いい仕事ができません。
自分が仕事を楽しむことが大事です。
4 宿命に抗う
「確定申告だから忙しいでしょう?」
「月末だから大変ですね」
「決算だから時間ないですよね」
と、税理士は見られています。
そんな宿命に抗い、自分なりの税理士の定義を見つけ出しましょう。
何も、同じように苦労しなくてもいいはずです。
5 外の世界を見る
税理士という閉鎖的な古い世界ばかり見ていると判断を誤ります。
「先生!先生」と税理士同士が呼び合う場には私は行きません。
負のオーラもあるからです。
外の世界を見て、外の世界に行き、学び続けましょう。
職業が関係なくなるスポーツに興じるのもおすすめです。
6 本当の意味で税理士の友人を見つける
税理士だから友人ではありませんし、同じ職業という枠でも考えていません。
それでも、税理士の友人を見つけることは大事です。
大きな相乗効果があります。
独立したとき、本当の意味で税理士の友人はいなかったといえますが、その後、徐々に増やしてきました。
7 資格とることを最優先に
たかが資格ですが、されど資格です。
資格をとることを最優先にしましょう。
一発勝負の試験、生半可の努力では合格しません。
1科目なら幸運もありますが、それが5回は続かないものです。
きっちり勉強して、職場の邪魔や妨害も気にせずに、合格を目指しましょう。
8 腕を磨き続ける
税理士は腕が大事です。
これは、すべての職業にとって言えることでしょう。
練習をする、勉強をするといった腕を磨くことを怠ってはいけません。
大塚さん(現在55歳)もこう言っていました。
私自身、いつ淘汰されるかわからないという危機感はありますから、そういったものにあぐらをかいてのんびりしたことは一度もありません。この世界に入ってから今に至るまで己の武器を研ぎ続け、最前線に立ち続けています。自分の商品価値は高まり続けているという自負はあります
資格を取ったとき、食えるようになったとき、仕事をスタッフに任せて現場を離れたとき、あぐらをかいてのんびりしがちなときがきます。
そこであぐらをかかないで腕を磨き続ける覚悟があるなら、税理士を目指してもいいでしょうね。
(私ももうちょいがんばります・・)
楽になるために税理士になるというなら、おすすめしません。
昨日は、午後にブログ入門セミナーを開催。
北陸新幹線にて、富山からお越しいただいた方もいらっしゃいました。
富山に行ってみたくなり、7/19の富山トライアスロンにエントリー。
今から楽しみです。
【昨日の1日1新】
※詳細は→「1日1新」
もつの唐揚げ
北陸新幹線で富山からセミナーに参加していただいた
セミナー前にスイム
■著書
『税理士のためのプログラミング -ChatGPTで知識ゼロから始める本-』
『すべてをがんばりすぎなくてもいい!顧問先の満足度を高める税理士業務の見極め方』
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