スキャンして領収書・レシートを捨てる!
夢のような話が実現しつつありますが、現実的には厳しいです。
クラウド会計ソフトfreeeのファイルボックスで試してみた結果をレポートします。
※スタバにて。DSC-RX100M3
スキャナ保存の要件が緩和!レシートを捨てられる?
レシート・領収書、請求書は、法律上、保管しておかなければいけません。
証拠となるからです。
今や紙はスキャンしてデータをして保管し、その紙を捨てることができます。
しかしながら、レシート・領収書、請求書は、原則として紙で保管しなければいけません。
国から見ると、データで保管すると、そのデータを改ざんして不正に税金を減らす恐れがあるからです。
(実際にやるのは大変でしょうが・・)
しかしながら、そうもいってられず(大企業からの要望もあり)、条件付きでスキャンして保存(法律では「スキャナ保存」といいます)し、紙を捨てることができる制度があります。
実は、昔からこの制度はあったのですが、条件が厳しすぎて実質的には不可能でした。
コストもかかり、大企業(その要望を出した)にしかできないものだったのです。
【関連記事】スキャナ保存の厳しすぎる要件。3万円以上の領収書がスキャンできるようになっても中小企業・フリーランスが導入できない理由 | EX-IT
リンク
従来は、
・3万円未満のみ対象
・電子署名必要
・タイムスタンプ
・カラーでスキャン
・スキャナーが必要(スマホ不可)
などの要件がありました。
平成28年1月1日(平成27年9月30日申請分)から、
・3万円未満のみ対象→3万円以上も対象に
・電子署名必要→不要に。ただし入力者、確認者のユーザーID等の記録は必要
・タイムスタンプ→そのまま
・カラーでスキャナ→グレースケールでも可能
・スキャナーが必要(スマホ不可)→そのまま
などといった要件に緩和されています。
ただし、適正事務処理要件という、「社内でルール、規程を作って相互チェックすること」が要件となりました。
さらに平成29年1月1日(平成28年9月30日申請分)から、
・相互の確認要件が緩和
・スキャナーだけではなく、スマホも可に
などと緩和されます。
依然として最も大きなネックは、タイムスタンプ。
スキャンしたデータが改ざんされていないかを証明するタイムスタンプを導入するには、コストがかかりすぎていました。
そのタイムスタンプの問題が解決し、実質的に使えるようになったのです。
現状、使えるのは、クラウド会計ソフトのfreee。
(記事執筆時点で、その他のMF、弥生会計オンラインは、まだ対応していません)
しかしながら、実質的には厳しいです。
従来の方法(紙で保管)の方が現実的でしょう。
freeeで試してみたけど・・
freeeでどのようにやるかをレポートします。
税務署へ事前の申請
レシートをスキャナ保存するには、事前の申請が必要です。
申請は、そのスキャナ保存をする3ヶ月前に提出しなければいけません。
https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/3030_01.htm
freeeのプラン変更
レシート・領収書のスキャナ保存をするには、freeeのプランを変更しなければいけません。
標準プランではなく、プレミアムプランにする必要があります。
料金は、
・個人事業主→ 標準プラン(月980円)・プレミアムプラン(月1,980円)
・法人→標準プラン(月1,980円)・プレミアムプラン(月3,980円)
です。
追記:値上げされ、個人も法人も月3,980円+税となりました。
月々でも、うっ・・となる金額ですが、これを原則7年間保管しなければいけません。
(平成20年4月1日以後終了したマイナスが出た事業年度については9年間。平成29年4月1日以後終了したマイナスが出た事業年度については10年間)
法人だと、月3,980円×12×7=334,320円。
(増える負担は、月2,000円×12×7)
これまでに比べるとかなり安くなりましたが(これまでだと1,000万円くらいかかる)、それなりの負担です。
【関連記事】スキャナ保存の厳しすぎる要件。3万円以上の領収書がスキャンできるようになっても中小企業・フリーランスが導入できない理由 | EX-IT
リンク
紙で保管するコストと比べてどちらがいいかというところでしょう。
一度、データ保管をはじめると、他の会計ソフトに変更しにくい点もネックです。
ただ、2016年5月31日までは標準プラン内で使えます。
一度試してみましょう。
freeeでの設定
さらに、freeeで設定を変更しなければいけません。
[設定]→[事業所の設定]→[詳細設定]で、[電子帳簿保存方対応の設定]を行います。
申請をしているかどうか、スキャナ保存の開始日を入力し、
さらに、保存の対象データを決めなければいけません。
請求書、領収書別に決めることができ、請求書は紙、領収書はデータという方法も選べます。
この設定をした場合、スキャナ保存の開始日以降は、タイムスタンプをつけるのです。
規程を作る
スキャナ保存の要件として、社内規程を作らなければいけません。
・適正事務処理規程
・事務分掌細則
・スキャナによる電子化保存規程
freeeでそのフォーマットはダウンロードできますが、結構大変であるのは確かです。。。
事務分掌細則、つまり誰がスキャンして誰がチェックするかを決めなければいけません。
スキャンした人がチェックするのでは法律上不可なのです。
ということは、フリーランス、ひとり社長は現状不可能ということになります。
(平成29年から若干緩和されますが)
私も導入するつもりはありません。
それはこの理由に加えて別の理由もあるからです。
(後述します)
freeeでスキャンデータを保管
freeeでスキャンデータを保管します。
これは、freeeのファイルボックスという機能を使うものです。
ファイルボックスでは、
・スキャナーで読み取ったデータをfreeeに取り込む
・スマホアプリで写真を撮ってfreeeに取り込む
という方法があります。
ここで注意しなければいけないのは、現状(記事執筆時)では、前者のスキャナーで読み取るデータしか、要件を満たしていません。
スマホは不可なのです。
(平成29年以降、スマホ、デジカメでも可になります)
【関連記事】速報!平成28年税制改正。中小企業・個人が知っておきたい改正点まとめ | EX-IT
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freeeで[取引]→[ファイルボックス]をクリックし、[ファイルをアップロード]で、PDFファイルを取り込めます。
複数のファイルを取り込むことはできず、1つずつです。
取り込んだデータは、日付、取引先、金額を読み取ってくれます。
これはスキャナ保存をするかどうかにかかわらずできるものです。
スキャナ保存をする(電子帳簿保存法対応にする)ようにしたあとは、取り込んだ後にデータ登録できません。
なぜなら、「スキャンした人と別の人が確認しなければいけない」という法律があるからです。
freeeでは、3人までメンバーを追加してデータを入力、確認できます。
この機能を利用して、別のメンバーを招待しておかなければスキャナ保存はできないです。
このように「このファイルは電子保存対象のため、取引の登録は本人以外の方が行う必要があります」と表示されます。
ひとりで仕事をしている人は、できないのです。
(私も含めて・・・。ひとり税理士、ひとり社長、フリーランスも・・ひどい世の中です・・)
[設定]→[メンバー招待]から招待しましょう。
スキャンした人のアカウントでは、左のように表示され、スキャンしていない人のアカウントでは、右のように表示されます。
スキャンした人がスキャンデータを[確認]すると、別のアカウントでも見ることができるようになるしくみです。
確認すると、データが登録されます。
入力しなくても済み、レシートも捨てることができるのです。
スキャナ保存の要件の1つ、タイムスタンプもしっかりついています。
freeeスキャナ保存の問題点
「レシートを捨てられる」
誰もが望んだ未来が実現しました。
しかしながら、多くの問題点があります。
現実的ではありません。
「実現」とはほど遠いです。
1 スキャン読み取りの精度がいまいちで手間がかかる
スキャナーは進化してきていますが、それでも完璧ではありません。
レシートや領収書から、日付や金額などを完璧に読み取ることができるわけではなく、修正が必要です。
非常に手間がかかります。
たとえば、このような結果でした。
・日付
2015年11月2日→ 2016年2月13日(読み取れなかったのでスキャン日が入っています。)
・店名
ヨドバシカメラ→読み取れず(電話番号でも読み取れていません)
・金額
61,480円→61(全然ダメです・・)
・内容
手入力の必要があります。
手書きの領収書は、もちろんダメです。
金額なんて、適当に日付の「22」を読み取ってしまっています。。。
この場合は、280円ではなく、260円で読み取っていました。
うーん、そこは税抜きやねん・・。
確認・登録するときに、逐一修正しなければいけないのです。
これなら、従来どおり紙で保管して入力した方が楽でしょう。
今後、読み取り(OCR)の技術が進化すると状況が変わるかもしれませんが、現状は厳しいです。
2 freeeの読み取り精度はいまいち??
読み取りの精度は、スキャナーによるもので、ソフトには関係ないと思っていましたが、ソフトによっても違いがあるようです。
先日は、弥生会計オンラインで試してみました。
(いまいちですし、スキャナ保存には記事執筆時まだ対応していません。)
【関連記事】弥生会計オンライン+ScanSnapでスキャンデータ取込。まだまだ実用レベルではない。 | EX-IT
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freeeで「61」円と読み取ったヨドバシカメラは、弥生会計オンラインでは、「61,480円」と読み取れています。
ただ、日付、摘要(内容)、店名は読み取れていません。
どっちもどっちですが・・
上島珈琲は、freeeだと、店名を読み取れませんが、
弥生会計オンラインだと、店名を電話番号から読み取れています。
有隣堂は、freeeだと手も足も出ない感じですが、
弥生会計オンラインだと読み取れています。
3 事前申請・社内規程作成が面倒
フォーマットがあるとは言え、税務署への事前申請はめんどうです。
しかも3ヶ月前に出さなければいけません。
○国税庁HPのサンプル
さらには、社内規程も作っておく必要があります。
4 複数人が必要
前述のとおり、スキャンする人と確認する人をわけなければいけません。
今回の記事では、複数アカウントを作って、ブラウザを変えてやりました。
実際にこれをやると法律違反になります。
この手間をかけてまで、スキャナ保存をしてレシート・領収書を捨てる価値があるかどうか非常に疑問です。
平成29年以降はこの要件が緩和される予定ですが、それでも他の4つのデメリットは消えません。
5 追加コストがかかる
freeeだと、個人で月1,000円、法人で月2,000円の追加コストがかかります。
これをかけてまで、スキャナ保存して手間も増やすのはどうでしょうか・・・。
確かに紙を捨てることはできますが、その代償は大きいです。
紙の保管コスト(倉庫を借りなければいけない、手間が多いなど)との比較して検討すべきでしょう。
まとめ
スキャナ保存は、
・読み取り精度にいらいらしない。修正を苦にしない
・事前申請をきちんとやる
・社内規程を作る
・複数人(スキャンする人、確認する人)がいる
・追加コスト<紙での管理コスト
といった場合は、導入してもいいかと。
私は、複数人いませんし、読み取り精度にいらいらしますし、修正がめんどくさいし、追加コストを払いたくないので、導入しません。
(私が気づいていないだけで実は使えるのかもしれませんが・・)
各会計ソフト(freee、弥生会計、MFなど)は、「スキャナ保存できる!」「紙を捨てられる!」とセールスするのはいいのですが、現実的に運用できるかどうかも解説した方が正直なビジネスなのではないでしょうか。
この辺は常に疑問に思います。
実際に試してみているのかどうか謎です。
「税理士の声をきいている」のかもしれませんが、現場で経理業務をやり効率化を実戦している税理士ではなく、大手の、声の大きい税理士の意見だけ聞いていてはいいシステムはできません。
「スキャナ保存という制度がありますが、弊社はこういった理由で導入しません」というスタンスもありではないでしょうか。
その分、入力を楽にする工夫、Excelで入力したデータを取り込みやすくする工夫をすべきです。
ネットバンクの自動連動があっても、現実的には、現金や立替(事業主借、社長立替)は発生します。
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追記:2016/08/29に次の記事を書きました。
昨日は午前中に書籍執筆、15時から個別コンサルティング。
個人事業・ブログ関係でした。
【昨日の1日1新】
※詳細は→「1日1新」
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■著書
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